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神戸地方裁判所 昭和33年(ヨ)201号 決定

債権者 株式会社福徳相互銀行

債務者 臼杵敦 外一名

主文

本件申立を却下する。

申立費用は債権者の負担とする。

理由

第一、申立の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

第二、当裁判所の判断

債権者が破産者東長作との間に昭和三十年十二月九日付貸付、手形割引、相互掛金契約等に基く同人の債務担保の為債権元本極度額を金百五十万円として別紙目録表示の土地に根抵当権を設定したことは本件記録中の疎甲第一号証(登記簿謄本)により明らかであり右東長作が同年九月四日破産宣告を受けたことは当裁判所において顕著であり、債権者が右抵当権の実行を申立て神戸地方裁判所において同年十月二十三日不動産競売手続開始決定が為されたことは債権者提出の疎甲第四号証(不動産競売手続開始決定正本)により明らかである。

(一)  債務者破産管財人臼杵敦に対する申立について。

債権者は破産者東長作の破産管財人を債務者として、右破産者の為す本件土地上の建物の建築の禁止、又右建築物への立入禁止等を求めているものであるところ、破産者は破産宣告により右宣告前に有した財産は一般に破産財団に組入れられこれについての管理処分権を失い、右権能は専ら破産管財人の手に委ねられるに至るものであるからその財産に関する訴訟については破産管財人がその当事者適格を有することは疑ないところであるが、破産者自身は行為能力や訴訟能力を制限されるものではないから右破産財団に属する財産に関せざる訴訟については破産者自身が当事者となり得ることは当然である。

而して一般に仮処分手続における当事者適格は仮の地位を定める仮処分の場合を除き所謂本案訴訟における当事者適格と一致すべきものと解すべきところ、本件仮処分申請の所謂本案訴訟と目されるものは右破産者の破産宣告後に建築した建築物の収去請求の訴訟であり、債権者は右請求権を保全する為に右建築の禁止等を命ずる仮処分命令を求めているのであるから、右本案訴訟はたとえ右建築が破産財団に属する土地について為されていても右建築物自体は何等破産財団を構成せず、従つて右建築物収去の訴訟は破産財団に関する訴訟ということができないものであるから、右請求権を保全せんとする仮処分申請の債務者も破産管財人に非ずして収去義務のある破産者自身であると云わなければならない。

されば債権者の破産管財人臼杵敦に対する本件申立は爾余の判断を為す迄もなく理由がないから却下すべきものである。

(二)  債務者森田幸一に対する申立について、

債権者提出にかゝる疎甲第五乃至第七号証(報告書及び写真)によると債務者森田幸一が昭和三十三年五月三日頃より本件土地上に家屋を建築中であることが窺われる。

そこで債務者森田幸一の前記認定の行為が果して債権者の抵当権に対して侵害を与えるものなりや否やについて按ずるに、

元来抵当権は債務者の物件に対する占有を奪うことなくして目的物の交換価値から優先弁済を受くべき物権であるから該物件の利用処分は抵当権を侵害しない限り即ち目的物の交換価値が減少しその為に被担保債権の担保力に不足を生ぜしめない限り抵当権者はこれについて何等の利害を有せず従つてこれに干渉することのできないことは当然である。

そこで本件についてみるに成程債権者主張の如く空地を売買する場合と建物のある土地の売買の場合とではその交換価値について大なる差異の生ずることは社会通念上明白ではあるが、前出疎甲第一号証(登記簿謄本)を詳細に検討すると本件土地の上には前記抵当権の共同担保としての家屋(家屋番号七六番)が存在していたことが窺われる。右事実によると右抵当権は所謂更地に対して設定せられたものと云うことのできないものであつて最初より右家屋により制限せられた状態における本件土地の担保価値に従つて設定せられたものと云わざるを得ない。即ち将来法定地上権の発生を余儀なくされるやも計り難い状態の下に設定せられたものであるから、前出疎甲第五乃至七号証により推知できるように右家屋が滅失した後に新たに家屋が建築せられたとしても右抵当権の目的たる本件土地の交換価値が抵当権設定当時よりも減少したと云うことのできないことは当然である。

されば、債務者森田幸一の前記建築行為は何等債権者の抵当権を侵害するものと云うことのできないことは明白であるので、爾余の判断を為す迄もなく理由がない。

以上債権者の本件申立はいずれも理由がないのでこれを却下すべきものとし、申立費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 前田亦夫)

(別紙)

申立の趣旨

債務者破産管財人臼杵敦は別紙目録表示の土地に建物を築造する等その価額の減少をきたすような一切の行為を自らなし又は第三者をしてさせてはならない。

債務者破産管財人臼杵敦及び森田幸一は現在右地上に建築中の家屋建築工事を中止し右家屋に自ら立入り又は第三者を立入らせてはならない。

債権者の委任した神戸地方裁判所執行吏は前各項の事項を適当な方法により公示することができると共に債務者等の前各項に違反する行為を適当な方法で差止めることができる。

申立の理由

一、債権者は破産者東長作との間に昭和三十年十二月九日付貸付、手形割引、相互掛金契約等に基く同人の債務担保のため債権元本極度額を金百五十万円として別紙目録表示の土地(別紙添付図面の通り)に根抵当権を設定し昭和三十二年六月三日手形貸付により金百二十七万円を返済期同年七月二十二日と定めて貸付けたが同人はこれを支払はないまゝ同年九月四日午后四時御庁において破産宣告を受けた。

二、そこで債権者は已むなく別除権を行使して別紙目録表示の土地につき第二順位の抵等権に基いて任意競売の申立をし御庁昭和三二年(ケ)第二三〇号事件として同年十月二十三日不動産競売手続開始決定がなされて差押えられ現にその競売手続進行中で競売期日は来る五月十四日と定められている

三、別紙目録表示の土地は空地であつて最低競売価額も空地として金四百八十六万余円に定められているところ破産者東長作は債務者森田幸一と意思を通じ同人をして右地上に秘かに家屋を建設させることを企て予じめ同債務者をして他の場所において木組一切を準備させた上去る五月三日以降の三日間連休で官庁凡てが休日続きに乗じ右五月三日早朝より建築工事にかかり本件土地上とその西側に接続する九鬼某氏所有地上に一棟八戸の木造ルーヒン葺平家建家屋を五日までに大半の工事を終り目下仕上工事を続行中である。

四、本件土地は前記の通り競売開始決定により差押えられその競売最低価額も空地としての評価に基き定められているのに債務者森田及び破産者等に該地上に前記の如き建築をせられるときは本件抵当土地の価格は著るしく減少し右評価格の三分の一位の価格に減少することは社会通念上明白であるところ本件土地には申請外兵庫相互銀行が約百五十万円の債権につき第一順位の抵当権を有しているので若しかかる価格の減少あるときは債権者の抵当権は甚大なる侵害を受け債権の回収は殆んど不可能に帰するので債権者は抵当権者としてかかる妨害行為の排除請求権に基き債務者破産管財人臼杵敦に対し地上建物の除去と土地の現状回復等の本案訴訟提起の準備中であるかが今緊急に債務者森田及び右破産者等の建築工事を中止させ将来もかかる工事等をさせないように且債務者等又は第三者をして右建物に立入居住使用等させないようにしておかなければ後日債権者が本案訴訟において勝訴の判決を得てもその目的を達することが著るしく困難となる虞れがあるので執行保全のため本申請に及ぶ次第である。

目録

神戸市生田区三宮町参丁目弐六番の拾参

(都市区画整理による換地番号元三地区一五-二八)

一、宅地 弐拾四坪参合七勺

但し都市区画整理により実際は弐拾坪二合六勺

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